深夜の手は、冷たかった。

 木々の間に広がる空気を連想させるように、ひんやりしている。

 駆け回って温まった私の身体にそれは心地よくて、私は繋いだ手を離さなかった。

 時折立ち止まっては、小さな花を眺めたり、葉に触れたりしながら、私達は森の中を巡った。

 覆い茂る新緑、時々つまづきそうになる木の根っこ、行く手を遮る茂み――。

 それらの中を、私達は突き進む。

 言葉を交わすことは、あまりない。ただ二人で微笑み合う。

 ずっと前もそうしていた気がして、それはとても心地よかった。

 深夜が、薄桃色の花を持って私に微笑む。

「見て」

 彼女の持つその花に、私も触れる。

 ふと。

 何かを、思い出しそうになって。

 でも、記憶にかかる霞はなかなか消えない。


 そう――以前彼女に会った時も、こんなことがあった。

 彼女は花を見て、小さく笑って、そうして――

 何かを私に、言った。

 ――何て?


 深夜は、そんな私を不思議そうに見ていた。

 やがて、また私の手を引っ張ると、駆け出した。




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