ぱらぱらと、記憶のページをめくるように。

 少しずつ、霞がかったような曖昧な記憶がはっきりしてくる。

 少女。やや長めの髪を、二つに結って、リボンをした――

深夜みや

 私が名前を記憶の底から見つけ出すより先に、彼女は言った。

 そう――確か、そんな名前だった。

「久しぶり」

 そう言って、目の前の少女は――私よりも幼い容姿の、少女は。

 藍色のリボンを風に揺らして、言った。


「久し・・・ぶり」

 暫く絶句した後、私は辛うじてそれだけを呟いた。

 少女は、私の様子に構わず、その顔に微笑を浮かべ続けている。

 そう・・・あの子は、いつも笑っていた。そっと、かすかに、何かを想いながら。

 ずっと昔、何年も前に、今日と同じようにここで会った彼女は。

 どうしてだろう。ずっと前のことなのに、覚えている。

 少しずつ、思い出す。

「行こう」

 記憶の中の少女は――深夜は、私の手をとると、

 深い緑の中へ、駆け出した。




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