epilogue:


 そのひとの姿が鏡の間から消えた後も、私はしばらくそこにいた。
 別にそうしてもかまわなかったのか、そのひとは私を見た後、何も言わずに立ち去っていった。
 硝子の中の私。何一つ私と変わらない姿。違うといえば、制服を着ていることくらい。それが、彼女が私として生きることを示していた。
 言ってしまえば人形。それでも、向こうの世界ではきっと誰も気付かないだろう。
 鏡の間の名の通り、ここは、きっと代わりを作る場所なのだ。鏡に映したように、そっくりの人形を。
 異世界から来た者を、ここにおいておけるように。
 周囲をよく見ると、ほとんどの扉の中には、同じような人形があった。人間そっくりの。ここは人形部屋だ。
 私と『深瑞』の手が、硝子越しに触れ合う。確かに、『それ』も私。一番長く見てきた姿なのだからわかる。
「真栖に・・・」
 彼女が、向こうへ行くと言うのなら。
「気にするな、って、伝えて」
 弱くて、逃げつづけていた私の代わりに。
 もう今なら許せる。私には、新たな居場所があるから。私は、彼を許すくらいの勇気は持てたから。
 けれど、だからこそ伝えられない。
 もう、真栖に言葉をかけることなどない。
 だから、代わりに伝えて。
「それから・・・沙羅には、ごめんね、って」
 私が向こうに残してきた親友。
 唯一、私がここに留まることを躊躇わせた人。
 それは今でも変わらない。けれど私は――

 ここに在ることを、選んだから。




END



to be continued...?







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