小さな少女は、私にそっと抱き付く。

 まるで、姉に甘える妹のように。

 悲しさを堪えられない子供のように。

 同じくらいの背を並べて歩いたのに、今は私の方が随分と高くなっていた。

 いつの間にこんなに、私は変わったのだろう。

 どれくらいの間、忘れていたのだろう。

「・・・本当はね、もう一つ、あったの」

 花夜が、小さく呟く。

「私が――深夜が、あなたに会いに来た理由。

――忘れてほしく、なかったの」

 私から離れて、花夜は言葉を紡ぐ。

「ずっと深夜とふたりきりだった私にとって、あなたはとても大切だった。

けれど、私はこの世から消えた。

――それでも、あなたはこれからも生き続ける。

生きているうちに、記憶なんて消えていく。けれど、どうしても忘れてほしくなかった。

ずっと覚えていてほしかった。

あなただけには」

「私達はずっとふたりだけだった。

ふたりで過ごして、ふたりでずっと一緒にいて。

私には、わからないけれど――そんな私達だったから、花夜は、あなたをとても大事にしていたんだと思う」

 深夜も言う。

 私は。

 長い長い日々を生きて。何かを少しずつ忘れていって。

 いろんな人に出会って、いろんな人に囲まれて。

 けれど、彼女達は違った。

「全部、思い出して。それで、忘れないでいてほしかった。

大切なあなただからこそ、私のことを、ずっと覚えていてほしかった」

 ふたりだけだった。世界にはふたりしかいなかった。

 その中で、出会った人が、どれだけ大切なものなのだろう。

 私には、想像できないけれど。

「忘れないよ」

 私は、花夜がそうしてくれたように、ゆっくりと、彼女を抱きしめた。




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