どれだけ時間が流れようとも、覚えている。

 僕が大切にしていた、あのときを。

 君といたあのときを。



 ただ、一生懸命に生きていた。

 ひたすらにひたむきに、目の前のことに立ち向かっていた。

 僕は君が好きで、君も僕が好きだった。

 それがあっただけで、充分だったのだろう。

 たとえ、別離の時が来たのだとしても。


 もしかしたら、気付き始めていたのかもしれない。

 だけど、わからなくて。

 その理由も、これからのことも、何も見えなくて。

 ただ、巡り来る日々を過ごして行きながら、待っていた。

 何かが変わる日を。


 いつ来るかもわからないその日を、待っていた。

 そうして、緩やかに穏やかに何かが変わって行って。

 その日は訪れた。


 何かが変わって行く日々の中、君も少しずつ変わって行っていた。

 時々見る姿は、どこか他人のようで。

 けれど、その日がやって来るという兆しは何も無くて。

 唐突に、訪れた。


 君は、最後まで理由を教えてくれなかった。

 ただ、境が訪れただけ。

 戻ることのない日々が、そこで途絶えただけ。

 わかったのは、君が僕を傷付けまいとしていることだけだった。

 選びに選んだような様の言葉を並べて、悲しそうな表情かおをして。


 君の言葉を受け入れることが、

 最後に僕が出来る唯一のことだった。


 ただ、ひたすらにひたむきに。

 傷付けないように、悲しませないように。

 あの時は、まだわかっていなかった。

 何も、持っていなかったから。

 強くもなく優しくもなく、ただ目の前のことを切り抜ける力しか持っていなかった。

 だから、本当は。

 傷付けないようにしながら、傷付かないようにしていた。

 自分が悲しむことのないように。

 あのときはまだ、僕達の知らないことが多すぎた。

 君は僕を傷付けない方法で離れて行くことに精一杯だった。

 僕は君を悲しませない為に受け入れることで精一杯だった。


 僕達は、傷付かないように、精一杯だった。


 だから、あのときは。

 理由を聞くことなく離れて行くことが正しかったのかもしれない。

 何が正解だったのかはわからないし、これからも知ることはないのだろうけど。


 もっと僕達が優しくなれていたら、他の道もあったのかもしれない。

 もっと強かったら、優しくなれていたのかもしれない。

 戻らない日々を取り戻したくて、そう、思う。


 あの日々は、決して戻らないけれど。

 心のどこかで、また君に会えると思っている。

 理由も根拠もないけれど。

 そしてその時は、聞けなかった理由を聞くことができると。

 そう、信じている。





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