君は、いつもその場所にいた。 



「何を見てるの?」

 小さな、小さな屋上で。

 君は、見上げていた。

 始まったばかりの夏の下。

「空」

 淡々と呟く、その声。

 その隣に並んで、僕も見上げた。

 蒼。

 一面に続く色。

 深く、淡く、流れていく。

 僕の知っているものとは、別物のような空。

 初めて見る景色。

 何も言わずに、ただ眺めていた。

 何度も。


 何度も、そこから空を見た。

 ずっと見上げていた。

 その色を。その流れを。

 ずっと。


 いつも、君はそこにいた。

 僕がそこへ行けば、君の後姿がいつもあった。

 フェンスの上、向こうに、続く空を。

 隣で眺めた。


 その色はいつも同じだけれど違っていて。

 その流れは毎日変わっていて。

 ずっと、眺めていた。

 僕が戻り行くその日まで。


 君は、その日も眺めていた。

 変わりゆく色、流れゆくもの。

 その日も、僕は見上げた。

 空と、空を眺める君の姿。


 ふと、思い出した。


 忘れていた。


 これは、何度も眺めていた空。

 あの夏も、その前の夏も、ずっと眺めていた。

 ずっと、君と。

 一緒に見上げた。


 いつか、記憶の中。


 どうして忘れていたんだろう。



 忘れないで。

 僕がここにいたこと。

 いつかまた、ここへやって来るから。

 この空に会いに。


 いつかまた、君もここへやって来る。

 それを信じているから。

 別の、空の下で。





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