見慣れたこの景色は、以前来た時と何ひとつ変わっていない。

 木の葉の様子も、流れる水の色も、風の匂いも。

 隣に君がいない、ということ以外は。


 十数日で、そんなに変わるはずもない。それなのに。

 何ひとつ変わっていないのに。

 どうしてこんなに悲しいのだろう。

 この景色は。


 君の言葉を、受け入れられなかったわけじゃない。

 別れは、いつかは訪れるものだから。

 何があっても。

 どんな人にも。

 けれど、あまりに唐突すぎた。

 大切にしてきたモノを失うことが

 どんなことか 君にはわからないだろう?


 君は 僕に何も言わないまま離れていくんだね。

 全てを隠したまま 去っていくんだね。

 まるでそれが僕への別離の証のようだった。

 僕にはもう 何ひとつ教えてくれないんだね。

 それなのに君の幸福だけを願うことは辛すぎた。


 これを乗り切れば きっと僕は今よりも強くなれるだろう。

 今は気付けなかったことにも きっといつか気付くだろう。

 ねえ 僕はそうするしかないのかな。

 このまま君を見送って 全てを過去にするしかないのかな。


 僕にはもう 一言を告げることも許されないの?

 君にもう一度会うことすら出来ないの?

 僕の心のいくつもの感情の欠片を残して

 君は全てを消そうとするの?


 せめて僕にも 別れを告げられるだけの時間が欲しかった。

 もう一度会って きちんと整理をつけたかった。

 それなのに 君は消えてゆくの?

 僕にはもう時間はないの?


 もう一度君と同じ時間を過ごしたい とか

 もっと一緒にいたかった とか

 そんなことは望まないから



 せめて もう一度君にさよならを





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