残された深夜は、呟く。 「最初からわかっていた。花夜も私も。 あんなことをしたら、花夜はきっと、この世界へやって来る。 だから、花夜の来世などなくなってしまうと。 それでも、花夜はあなたに会いに来た。 そこまでしてやってきた花夜の気持ち――わかってほしい」 それは、彼女なりの懺悔なのかもしれない。 姉の、来世を――未来を奪ってしまったことへの。 「だから・・・私とも、約束してほしい。 花夜のことを、忘れないと」 それでも、彼女は姉思いだ。 花夜を思っていたからこそ、あんなことをした。 「うん」 深夜は、悲しそうな顔をしている。 私が花夜を忘れてしまうことが――姉が記憶から消えてしまうということを、恐れているのだろう。 「大丈夫だよ」 彼女を安心させたくて、私は微笑む。 「絶対に、忘れない。 それが、私にできることで、しなくちゃいけないことだから。 だから、花夜との――あなたとの約束」 私は、花夜にそうしたように、手を差し伸べる。 深夜は、一瞬何なのかわからない顔をして――小指同士を結ばせた。 「ありがとう」 深夜は、姉によく似た微笑を浮かべた。 そこに、悲しさや恐れはもうなかった。 「最後にひとつだけ、教えてあげる。 私が花夜の望みを叶えたのは、花夜のためだけじゃなかったの。 あなたに、会ってみたかったから」 姉が、死んでもなお大切にしていた人に。 そう、こっそり呟くと、いたずらに微笑んで、彼女も去り行く。 「さよなら」 藍色のリボンを、風に揺らして。 後に残ったのは、白い花と淡い緑と、ひんやりとした空気と、 私だけだった。 |