深夜は、遠い過去を思い出すかのように、呟く。

「私は――病気で、死んだ。もう何年も、ずっと戦ってた。でも、駄目だった。

それが、ここにいる時だった」

 花夜が、それに続く。

「深夜は、ずっとひとりで戦ってた。ここには、療養で、私も一緒に来ていたの。

深夜が、消えて――私も、後を追った。

離れることなんて、できなかった」

 その瞳は、やはり思い出すかのように。

「ひとりになるなんて、思わなかったの・・・ずっと、ふたりで一緒にいたから。

絶対に、またふたりで遊べると思っていたの。

だから、ここで、深夜がよくなるのをずっと一緒にいて待ってた。

その時に――瑠叶に出会った」

 花夜が私を見る。

 昔と変わらない瞳が、そこにある。

「深夜がよくなるのを、不安も抱かずに待ち続けていて――私が、館から外に出たときだった。

たまたま、この、草原で」

 そう。

 本当に偶然だった。

「一緒にいて、楽しかった。とても嬉しかった。

だから、もう一度会いたくて――でも、その年、あなたがここを去ってからすぐに。

私達は、この世界から消えた」

 深夜が、その後を続ける。

「花夜は、死んだ後も、あなたに会いたがってた。

ずっと、それを願っていて。だから、花夜の魂は、この場所に留まりつづけていた。

そして、あなたが、再びここにやって来て。

花夜は、私に頼んだ。

『私の代わりに瑠叶にもう一度会ってきて』と。

だから私は、花夜の代わりに、ここへ来た」

「深夜は、病気で死んだ。けれど私は、自分でその命を捨てた。

だから、もうこの世界へ来ることは許されなかった。それで、深夜に頼んだの」

 それで、少しの疑問が解決した。

 何故、花夜自身が来たのではなくて、双子の妹が来たのか。

 でも、まだ疑問はある。

 それを解消するかのように、深夜が言う。

「本当は、それだけでも――私が花夜の代わりをするだけでも、よかった。

花夜を演じて、そのまま去って行くこともできた。

けど。

花夜が、どうしてもあなたに会いたがっているように見えたから。

それに、私を花夜だと思い込ませたままにすることも、できなかった。

だからこうして、無理矢理にでも、会わせようとした」

 妹は、姉を見やる。

 姉は――負けた、というように、小さく首をすくめた。

 そうして、私に近付く。

「――会いたかったよ」




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