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少 女 の 人 形
--------------------------------------------------------------その美しい少女の蝋人形は、彼に言葉を伝える術を持ち合わせていませんでした しかしそれでも男のほうはというと、それは大層人形を可愛がっていたのです 二人は幸せでした たとえ通じる言葉がなくとも、二人は確かに愛し合っていたのです 男の方が老いても、人形は毎日欠かさず丁寧に手入れをしていたために その美しさは損なわれること無く、それは生きているかのような姿でした ある日別の男がその少女の蝋人形の美しさに囚われてしまいました 男はとても狡賢い人間で、最初は人形を眺めているだけでも満足していましたが 欲望は留まることを知らず、ついには彼を騙しその人形を奪い取ってしまったのです 人形を奪われた男は大層嘆き悲しみました 人形の方も愛する彼と引き離され心の中で涙しました しかしそんなことが意地悪な男に分かるはずもありません 最初は人形を手入れをしていた男でしたが、しばらくすると飽きてしまい やがて汚れの目立つようになった人形は、暗い闇の中に閉じ込められてしまったのです... 長い月日が流れても、彼と人形が出会うことはありませんでした あぁ、今頃彼はどうしているのだろう 人形は真っ暗な闇の中からただ彼のことを心配していました そしてまた、いつか必ず彼が自分のことを助けに来てくれると信じていたのです ある日二人を引き裂いた意地悪な男が病気で死にました 人形は遺品として男の娘の手に渡りましたが、みすぼらしく汚れていた人形を 娘は気に入ることが出来ず、ついには冷たい場所に置き去ってしまったのです それからまた長い月日が流れました もう人形はいつかのような美しさを失い、もはや見る影も無くなっていました ただのごみと見間違われてもおかしくない程の姿に変わり果てていたのです それでも男は人形を見つけました たとえ姿形が変わっていても、男は今でも人形を愛していたからです しかし人形はもう命を失っていました 長い間冷たい場所に置き去りにされた人形は 最後まで彼のことを想いながら眠りについたのです 男は家に戻ってから再び人形の手入れを始めました その人形がもう魂のない抜け殻と知っていても続けました 気の遠くなるような長い月日が流れました 人形は元通りの美しさを取り戻していました 男は今日も満足そうに人形に微笑みかけています 男は幸せでした たとえ人形に魂がなくても、男は人形を愛し続けていたのです 人形は幸せでした たとえ男が側にいなくとも、男が人形を愛し続けていたからです 二人はとても幸せでした --------------------------------------------------------------
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