一本道が、ありました。

 それは、私が歩いて行く道です。
 そしてまた、私が歩いてきた道です。

 その道は曲がりくねって、丘や谷を通り、どこまでも続くものです。
 遥か遠くまでの、長い長い道です。

 その道は一本道です。
 私だけが歩いて行くものだからです。


 あるとき、私は気付きました。
 その道が、ただの一本道ではないということに。

 その道は、たったひとつの線を描きながら、
 いくつもの道と交わっていたのです。

 私は知りませんでした。
 たくさんの道と交わっていたこと。
 私の道が、たくさんの人の生き方と関わっていたことを。


 私は私の力でこの道を進んできました。
 けれど、この道は、絶えず誰かと関わり続けてきたのです。
 私が選んだ進み方も、誰かと関わり続けていたのです。

 知らず知らずのうちに、私は、私達は、誰かの選択を変え、その進み方を少しずつ動かしているのでしょう。
 ひとりだと思った道も、必ず誰かがいるのでしょう。

 知らずに、誰かの道と交わり、その道を目にして、歩み方を変え。
 知らずに、交わった道に変えられた自分の道を、歩んで行き。
 知らずに、何かを変え、何かが変わりながら。

 私達はこうやって、誰かと関わりながら生きていく。

 知らず知らずのうちに、誰かを励まし、傷付け、何かを与えながら。

 ひとりきりのこの道は、
 決してひとりではないのです。