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Snow Destiny2
 Since 2003




Cross roads



 あの時 あの場所で 僕らは確か 共に時を過ごしていた

「ねえ、きっと、また会えるよね?」
「うん」

 どちらとも無く言葉を交わす。
 それは、まだ小雪のちらつく7年前の初春こと。
 誰にでもありそうな、幼いころの小さな約束。

「ねえ、もしまた会えたら、お嫁さんになってくれる?」
「ああ、約束する。」
「じゃあ、指切りしよう。」
 差し出された、冷たい手。そっと小指をからめる。
 僕らはそこで、小さな約束をした。
 その頃は、この場所が、必ず再開できるという「逢瀬路地」であることなど知る由もなかった。

 この物語は、数多くの伝説、逸話を持つこの路地の、新たな1ページである。



CROSS ROADS



「ふう、ようやく2学期も終わりか。」
 僕は椅子を立ち、軽く伸びをした。僕の名は草薙達也、ごく普通の高校2年制だ。
「さて、帰って寝るかな。」
 12月も終わりに差しかかったこの時期、外は凍えるような寒さだ。
 最愛の相手でもいれば話は別だろうが、そんな人などいない人にとって、俗にクリスマスイブと言われるこんな日は、家に帰って寝るに限る。
 幸い年末は各テレビ局も工夫した番組を組んでいるので見ていてあきることもない。
 そう思い席を立とうとする僕を、引き留める声がした。
「おい、達也。今夜暇か?」
「ああ、残念ながらな。」
 声をかけて来たのは斜め前の席の西谷弘。
 なかなかの顔とスタイルを持つ好青年だ。
「だったらさ、今日合コン行こうぜ。」
「お前が合コンなんて珍しいな。」
「んなことは気、気にするな。とにかくだ、行くのか行かないのか?」
 弘の言い方に多少の疑問がるけれど、他に特に用事の無い僕は、「んじゃ、行くか。」と答えた。
「よし、んじゃ、6時に西川駅前に集合な。ちゃんと洒落た格好して来いよ。」
 そう言い残すと弘は帰って行った。

「やれやれ、親父達は二人でディナーかよ。」
 帰ってみるとテーブルの上には、二人で食事に行くからこれでてきとうに遊んできなさい、と言う書き置きと、お金がおいてあった。
「まあいいか、それより僕もさっさと出掛けるかな。」
 テーブルの上にあったお金を財布に入れ、てきとうな服に着替えると、外に出た。
 夕方になり、辺りは一層寒さを増している。
 僕は足早に駅へと向かった。

「おーい達也、こっちだこっち。」
 駅前に来ると、既に結構な人数が集まっていた。
「やっぱし人数合わせか?弘。」
 冷ややかな視線を向けると、
「まあ、いいじゃねえか。楽しもうぜ。」
 はぐらかされた。
 これは間違いなく人数合わせだな。
 そう思いながら一行はゆっくりとカラオケボックスへ向かった。



「ふいー。」
 カラオケボックスからでてきた僕は、大きく伸びをした。
 人数合わせだと思っていたが、正直久しぶりに楽しかった。
 色々な話も聞けたし、下心があるなしに関わらず、こうやってみんなで集まってわいわいやるのは良いことだと思う。
「そういや弘、なんとかって子が僕のことずっと見てたとか言ってたな。誰だっけか。」
 そんなことを考えながら路地を曲がった僕の目に、不思議な光景が飛び込んできた。
 いつの間にか降り出した雪の中、一人の少女が立っている。
 ここは大通りからも外れているし、駅からも離れている。
 待ち合わせをするような場所ではない。
 その表情は暗くてよく見えない。
「あの。」
 僕は思わず彼女に声をかけた。
 弘と違い見ず知らずの女の子に声をかけるなど僕には普通ありえない。
 でも、その時は何故か、不思議と言葉が出た。
「はい?」
 ゆっくりと少女が顔をあげる。
 すっきりした顔立ちの、きれいな子 −少なくとも僕にはそう見えた だった。
 それに、彼女の顔を見た時、何故か、なんとも言えない懐かしい気持ちになった。
「いや、こんな所でなにしているのかな?っと思って。ほら、ここって特に目印になるものもないし、待ち合わせには不便じゃないかな、っと思って。」
 少女は僕の顔を見て一言、
「ここじゃないとだめだから。」
 っと答えた。
「とにかく、雪も降って来たし、このままじゃ凍えちゃうよ。どこか入ろう。」
 幸いさきほど僕らが合コンしたカラオケボックスも近い。
 とりあえずそこへ連れて行こうと歩きだした僕の手を、ふいに少女が引きとめた。
「あなたの、家がいい。」
「え?」
 確かに僕の家はここからならそう遠くはない。
 だが、何故この少女はそのことを知っているのだろう。
 それともただ言ってみただけだろうか。
「うん、いいよ。」
 取り合えずそう答えた。
 両親はどうせこのままどこかに泊まってくるのだろう。


 家につくと、案の定留守電に今夜は泊まって行くと言う両親からのメッセージが入っていた。
 まあ、たまの休みだし、彼らにはゆっくりふたりっきりのクリスマスを満喫してもらおう。
 それより今は自分が連れてきたあの少女の方が気掛かりだ。
 台所に常に動いているコーヒーサイフォンから2杯分のコーヒーを出し、少女の待つリビングへ向かった。
「はい、コーヒー。」
「あ、ありがとう。」
 受け取ったコーヒーを飲みながら、少女はふと、
「あ、この味、昔と全然変わってないな。」
 っと言った。
「え、昔と変わってないって?」
「まだ、思い出してくれないんだ。私は、ちゃんと覚えてるのに。忘れたことなんてないのに。」
「え?」
「また会おうって約束したのにね、草薙達也君。」

 思い出した。
 小さなころの、もう随分前に記憶の隅に追いやってしまった幼いころの小さな小さな約束。
 彼女の名前は。
「まさか、裕子ちゃん?あの、隣りの家に住んでいた、あの広谷裕子ちゃん?」
「思い出してくれたんだ。よかった、忘れられていなくて。」


「うん、ちゃんと覚えてるよ。約束のことも。」
 だからあの場所じゃなければいけなかったんだ。
 あそこは逢瀬路地、僕と裕子が、約束をした場所。
「でも、この近くに引っ越してきてたならどうして、どうしてもっと早く来てくれなかったのさ。」
 そう聞くと、裕子は少しばつが悪そうにして、
「それはね、色々あったからだよ。」
 っとだけ言った。

 それから一時、僕らは昔話に花を咲かせた。
 思えば二人で随分色々なことをしたものだ。
 虫捕り、秘密基地作り、キャッチボール。
 男の子の遊びでも、裕子は何も言わずについてきてくれた。
 だから僕は、いつも彼女を遊びに誘った。
 密かにあこがれていた子だから。

「あの時達也君、私のポケットにセミいれたでしょ。私怖ったんだからね。」
「ははは、ごめんごめん。」
「もう、本当に反省してる?」
「はい。反省してます。」
「何かウソ臭いなあ。」
「そんなことないって。」
 気が付くと、そろそろ日付が変わる時間だ。
「あ、裕子ちゃん家近くなの?もう遅いし、両親も心配すると思うから、送って行くよ?」
「そういえば、達也君のご両親は?」
「ああ、クリスマスを満喫するって二人で出掛けたよ。僕が大きくなったらもうこれだ。まったくもう。」
「あはは、いいじゃない、仲のいいご両親で。それに、達也君のことちゃんと信頼している証拠だよ。」
「そうかなあ?」
「そうだよ。」
「で、どうする、家まで送って行くよ。」

 そこで、裕子はちょっと表情を暗くすると、
「ね、泊まっていっていい?」
 っと言った。
「うちは全然かまわないけど、いいの?久しぶりに会った男といきなり二人で泊まるなんて。」
「うん、私も達也君のこと信じてるもん。それに、それにね。」
「それに?」


「今でも、好きだから。」


「え?聞こえないよ。何て言ったの?」
「内緒。」
「なんだい、もう。」
 それからまた、色々な話をした。
 裕子は今、かかりつけの病院の近くにある学校に通っているらしい。
 昔からからだの弱かった裕子は、その体力の無さがゆえにクラスメイト達に相手にされなかった。
 ちゃんとした友達が出来始めたのは、僕と出会ってかららしい。
「だからね、体が弱いことは悪いことじゃ無いって思うようになるきっかけをくれたのは、達也君なんだよ。」
「そ、そうなんだ。うわ、なんか照れるな。」
「あはは。」

 後退で風呂に入り、僕の部屋のベッドに並べて布団を敷く。
 ベッドは裕子にゆずってあげる。

「じゃあ、おやすみ。」
「うん。」
 電気を消す。暗闇が辺りを包む。

 −ありがとう、達也君。覚えててくれて。
 −今でも、大好きだよ


 朝起きると、まるでそこには誰もいなかったかのように、裕子の姿は消えていた。
 台所、リビングと探してみるが、裕子の姿はどこにもない。
 玄関のカギはしまっていた。
 裕子はカギを持っていないので、外に出ても家のカギを閉めることは出来ないはずだ。
「夢、だったのかな。」
 一人つぶやく。
 しかし、昨日の出来事は、夢と言うにはあまりに鮮明に覚え過ぎている。
 夢ならばもっと記憶はあいまいになるはずだ。
「そうだ。」
 僕は小学校の頃のクラス名簿を探しはじめた。
 裕子は引っ越してしまったので、卒業アルバムには名前が乗っていない。
 しかし、何でもとっておく両親の性格から、当時のクラス名簿がまだ残っていることは容易に予想出来た。
 案の定、物置の奥からごていねいにも学年別に分類された段ボールが出て来た。
「広谷、広谷っと。あった、これだ。」
 早速書いてある電話番号に電話し、現在の住人に当時のことを聞く。
 相手は快く応じてくれた。

「あ、そうなんですか。え、わかりました。」
 裕子の引っ越し先を追って3回目の電話で、僕は彼女の「今」をつきとめた。

「ここか。」
 うちから電車で一駅、粉雪が舞い降りるそこに僕は降り立った。
 国立中央病院。
 裕子は半年前からここに入院している。
 本当は今の家に引っ越して来たら、僕と同じ学校に通う予定だったそうだ。
 まえもって聞いておいた部屋番号をナースステーションで聞き、エレベーターに乗る。
 301号室。
 そう書かれたドアをノックする。
「はい、どうぞ。」
 中からか細い返事がした。
 ドアを開けると、そこには昨日のままの裕子がいた。
 しかし、その体には無数のチューブや測定器が取り付けられている。
 あした手術なんだそうだ。こんな状態の彼女が、僕の家まで来れる何て考えられない。
「おっす、ゆ、裕子。」
 僕は平静を装って挨拶した。
「あ、達也君、やっぱり探してくれたんだ。」
「え、じゃあ、昨日のは。」
「当然、私だよ。でも、ここにいる私じゃない、別の私。」
「え?」
 よく分からないっと言う顔をした僕に、始めから話すね、っと言って裕子は話始めた。
「聞いてると思うけど、私、あした手術なの。成功する可能性は半分くらい。
でも、手術を受けなくては私は間違いなく死んでしまう。だから、私は手術を受けることにしたの。
でも、でもね、怖かった。だって手術が失敗したら、死んじゃうんだよ?」
 そこで裕子は言葉を切った。
 彼女の肩は、小刻みに震えている。
 僕は彼女の肩にそっと手を沿えてあげた。
「それでね、昨日、占い師さんが来たの。」
「占い師?」
「うん。魔女みたいなかっこうしてた。その人が私の前で何かして、気が付いたらあの場所にいたの。」
「それはきっと−」
 悪魔の仕業なのかもしれない。
 偶然見た同じ夢に過ぎないかもしれない。
 でも、僕はこう答えた。
「きっと神様が裕子を元気づけてくれたんだと思うよ。病気と闘えって、ね。」
「うん。私、がんばる。」

 しばらくして、彼女は手術室の中へ消えて行った。
 僕に、ありったけの笑顔を残して。


「おーい達也、合コン行かないか?」
 帰ろうとする僕に、弘が声をかけて来た。
「なんだ、また人数合わせか。」
 冷めた声で返事をしてやる。
「そんなかたいこと言わないで、な。頼むよ。」


「うーん、ごめん、今日は先約があるんだ。」
「なんだ?デートか?」
「ふ。」
「おい、達也。マジでデートか。このやろーー。」
「うわ、待て待て、入ってる入ってる、いててて。」
「んまあ、何にしろ、良いことだな。せいぜい振られるなよ。」
「大きなお世話だ。」
 教室を後にする。
 待ち合わせは、いつもの場所。
 出会い、別れ、そしてまた出会った、あの場所。

「ごめん裕子、ちょっと遅れた。」
「あはは、まだ10分前だよ?」
「あ、ほんとだ。」
「達也はほんと、そそっかしいんだから。」
「ちぇっ。それより、早く行こうぜ。」
「うん、今日はどこに連れてってくれるの?」

 今、この場所から
  二人の時間が、動き出した。

end




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